最近自身がAIを活用するようになったこともあり、先日初めてAIのイベントに参加してきました(AIエージェント博)。大変盛況で人々の関心の高さを実感しました。
メガネ業界はどうか。展示会やネットの記事を見ると、「次はメガネもAIの時代だ」という空気を強く感じます。スマートグラスなど、これまで沢山の商品が話題となり、日々進歩し、よりメガネに近い形で便利な機能を提供してくれるものが出てきました。ただ、正直に言うと、メガネ専門店の現場では、そこまで盛り上がっている実感はありません。

もちろん、スマートグラスを使っている人が全くいないわけではありません。
ゲーマーの方や、ガジェットが好きな方を中心に、すでに使っているユーザーは確実にいます。ただ、そうした方々の多くは、ネットや家電系のルートで購入していて、メガネ専門店のカウンターに座るタイプのお客様とは、少し距離があるように感じます。
この温度差は、決して不思議なことではないと思います。むしろ、自然な反応ではないでしょうか。
今のスマートグラスは、視力補正やかけ心地といった部分よりも、「体験」「新しさ」「機能・利便性」が価値の中心です。一方で、メガネ専門店が扱ってきた価値は、「視力補正」「かけ心地」「デザイン」といった、日常に深く関わる部分です。

また、お店側としては、不具合が起きたとき、その説明やフォローを誰がするのか、ソフトウェア更新による挙動変化、長期サポートの不透明さなどの不安もあります。そう考えると、専門店が慎重になるのは、ごく自然な判断だと思います。ただ、ここでAIまで一緒に距離を取ってしまうと、少し話が違ってきます。スマートグラス=AIではありません。
JINSやOWNDAYSなどでは既に 生成AIで「自分に合うメガネ」を提案しています。AIというと、どうしてもスマートグラスや派手な未来像と結びつけて考えがちですが、実際には地味かもしれませんが、もっと現場向きの使い道があるのではないでしょうか。
たとえば検眼です。
測定そのものは、今までと何も変わりません。
ただ、その数値をどう読むか、どう微調整するかは、どうしても経験に左右されます。
ベテランなら「ここ、ちょっと嫌な感じがするな」と気づくところを、新人はそのまま通してしまう。この差は、どこの店でもあるのではないでしょうか。
AIは、そうした“過去の結果”を覚えています。この度数で作ったあと、どうだったのか。疲れたのか、慣れたのか、作り直しになったのか。そういった過去の情報をもとに、AIは「このケースは注意したほうがいいですよ」と、裏側でそっと教えてくれる存在になるでしょう。
フィッティングも同じです。
顔幅や左右差、どこに圧が出やすいか。ベテランは感覚でやっていますが、それを新人に伝えるのは難しい。AIがそこを数値や傾向として示してくれれば、調整はかなり楽になりますし、失敗も減ります。

レンズ提案についても、「売るためのAI」というより、「後悔させないためのAI」というほうがしっくりきます。例えば、このお客様属性では「ブルーライトカット+弱調光の満足度が高い」、あるいは「完全なクリアより、わずかに色の入ったレンズの方が再来店につながりやすい」といった具合です。そういった判断を、静かに支えてくれる存在です。
ここまで読んでいただくと分かると思いますが、AIが前に出て接客をするような店ではなく、接客するのは、今まで通り人です。判断するのも、最後は人です。
ただ、「失敗しにくい店」にはなります。誰が対応しても、大きく外さない。説明にブレが少ない。お客様から見ると、「なんとなく安心できる店」になる。すべてのサービスの品質向上が、見えないところで静かに行われていく。それが、「AIメガネ店」の正体だと思っています。
では、スマートグラスはどうなるのか。
個人的には、あと少しは別の道を進むと思っています。
ただ、近い将来、スマートグラスが一日中かけるのが当たり前になり、度入りが前提になり、「見やすさ」「疲れないこと」が何より重要になったとしたら、話は変わります。そのとき、スマートグラスはガジェットではなく、普通のメガネと同じ土俵に上がってきます。そうなれば、検眼もフィッティングも、レンズ選びも、避けて通れません。ここからメガネ専門店の優位性が生かされてくるでしょう。
合う人と、合わない人を見極められる店だけが扱い、すべての専門店がスマートグラスを扱う必要はないと思います。むしろ、そのほうが信頼は残ります。スマートグラスは、メガネ専門店の仕事を奪う存在ではなく、準備していない店を静かに通り過ぎていくだけです。
AIは未来のための派手な道具ではなく、今やっている仕事を、より楽に、より確実にするための道具です。その変化は表からは見えにくいかもしれませんが、確実に積み重なっていきます。
そしてその延長線上に、スマートグラスとの接点が生まれる可能性があります。それは今すぐではないかもしれませんが、長い目で見れば、いずれ必ずやってくる変化だと思います。
大切なのは、無理に先取りすることでも、距離を取り続けることでもなく、「いつでも対応できる状態」を、静かにしっかりと整えておくことなのかもしれません。
そう考えると、AIに向き合うことは、スマートグラスのためというより、メガネ専門店としての仕事を、これからも続けていくための準備なのだと感じています。

