いま、世界の眼鏡業界で静かな革命が進んでいます。その主役が、3Dプリント技術です。代表格はデンマークのMonoqool(モノクール)。すでに世界20カ国以上の店舗へ、何千本もの眼鏡を送り出しています。その作り方は驚くほど緻密で、主力のSliderシリーズは最大600もの極薄レイヤーを積み重ね、30以上の後処理工程を経て、一本あたり最大24時間をかけて完成します。
弊社で扱うドイツのFlair(フレアー)も、創業80年の節目に、3Dプリントの新コレクション「2500」を世に送り出しました。精緻に出力したフロントに得意のチタンのテンプルを合わせた一本は、ボリュームのある見た目とは裏腹に、手に取れば驚くほど軽い。ネジを使わないシームレスなヒンジが、緩みにくさと美しさを同時に叶える「Made in Germany」です。
では、なぜ3Dプリント眼鏡はこれほど支持されるのでしょうか。一つは、かけていることを忘れるほどの圧倒的な軽さです。そしてもう一つ、より本質的な理由があります。従来の眼鏡は、売れ筋を見込んで先に大量に作るのが常で、業界は売れ残りの在庫を抱えがちでした。ところが3Dプリントは、必要な分だけをオンデマンドで、少量から作れます。向かう先は画一的な大量生産からの脱却であり、「その人のための一本」を無駄なく届けるという思想です。最新技術はいま、量産ではなく、個別化へと舵を切っています。
さて、ここで一度、その対極にあるものへ目を向けてみましょう。べっ甲フレームです。レーザーも3Dデータも使いません。タイマイという海亀の甲羅を、職人が一枚一枚、手で削り出していく。150年以上続く工芸の世界です。スピードも効率も3Dプリントとは比べるべくもなく、最新技術のニュースの隣に並べれば、時代に取り残された遺物のようにすら映るかもしれません。
ところが、3Dプリントが目指すものを深く知れば知るほど、不思議な逆転が起こります。最先端の技術が莫大な開発費と高度な仕組みを費やして、ようやくたどり着こうとしているゴール。それは「他の誰ともかぶらない、自分だけの一本」でした。実際、HOYAとMaterialiseの「Yuniku(ユニーク)」は、顔を3Dスキャンして一人ひとりの目とフェイスラインに合わせ、フレームを丸ごと設計する「世界初の3Dテーラーメイド・アイウェア」を提供しています。一方でべっ甲は、その価値を、最初から、当たり前のように体現してきたのです。天然素材であるがゆえに、柄も色合いも一枚ごとに異なり、指紋のように、世界に同じものは二つと存在しません。データを使って個別化を「作り出す」3Dプリントに対して、べっ甲は素材そのものが、生まれながらにして個別化されているのです。
その個別化は、時間とともにいっそう深まっていきます。べっ甲は自然物であるがゆえに、かけ続けるうちに、その人の顔へとゆっくり、しなやかに馴染んでいくのです。買った瞬間が完成形である工業製品とは違い、べっ甲は持ち主とともに時間をかけて変化し、世界に一つだけの「その人の形」へと育っていきます。3Dプリントが出発点でフィットを最適化するのなら、べっ甲は使う年月そのものでフィットしていく。これは、どんな最新技術にも真似のできない、べっ甲だけの物語です。
そしてべっ甲には、もう一つ、3Dプリントがどれほど進化しても手にできないものがあります。素材そのものの希少性と美しさです。3Dプリントの原料は工場で均一に作られるポリアミドの粉末、いわば「無限の素材」。一方、本べっ甲はタイマイの甲羅からしか生まれない、有限の自然の恵みです。べっこう飴のような深い飴色、黒と金茶が溶け合う「ブチ」と呼ばれる斑紋。天然のタンパク質が長い年月をかけて形づくったその造形には、プラスチックの「べっ甲柄」とは根本から異なる、本物だけの温かみと深みが宿っています。
3Dプリント技術が称賛されるほど、その技術が追い求める価値、すなわち唯一無二であること、軽やかであること、身体に馴染むことを、べっ甲は何世代も前から備えていたという事実が、かえって鮮やかに浮かび上がります。アプローチは正反対でも、向かう場所は驚くほど近い。そのうえでべっ甲は「使うほどに馴染む」という、技術が追いつけない一歩先の価値まで持ち合わせています。
私たちがご紹介する341のべっ甲フレームは、最先端のものづくりがいま懸命に追いかけている「自分だけの一本」を、最初から、そしてかける年月とともにさらに深く体現してくれる一本です。流行を追うのではなく、唯一無二を身につける。そんな選択をされる方にこそ、ぜひ手に取っていただきたい逸品です。
TFO-007 B (バラ甲)
TFO-010 B SQ GP (バラ甲)