思っていたより速い。いま、スマートグラスに起きていること

スマートグラスと聞いて、「まだ一部のガジェット好きのもの」「普及はもう少し先」という印象を持つ方は少なくないと思います。私もそのうちの一人でした。少し前までは、その受け止め方でおおむね正しかったはずです。

ところが、ここ半年ほどで市場の景色は思いのほか速く変わりました。世界の出荷台数は前年から倍増し、街なかで見かけても違和感のないデザインの製品が登場しています。今回は、話題先行になりがちなこの分野を落ち着いて見渡しながら、いちばん気になる一台を掘り下げてみたいと思います。

まず、市場の全体像から見てみましょう。現在のスマートグラス市場は、実質的に一社の独走に近い状態にあります。サングラスの名門Ray-BanとMeta(旧Facebook)が組んだRay-Ban Metaが世界シェアの8割前後を握り、累計出荷は700万台を超えました。

もっとも、その周囲では主要な顔ぶれもにぎやかに動いています。

  • Ray-Ban Meta:026年5月に日本上陸。1,200万画素カメラで写真や3K動画を撮影でき、オープンイヤースピーカーやMeta AIとの対話にも対応します。会話のライブ翻訳は6月から日本語を含む20言語へ。価格は73,700円からで、撮って共有する楽しさが持ち味です。
  • Xiaomiなど新興勢:スマートフォンで知られるXiaomiのAIグラスは発売直後から世界販売の上位に入り、台数の面では中国勢の存在感も増しています
  • SABERA(サベラ):福井県鯖江発の純国産。約37グラムと軽く、右目側の表示で通知・ナビ・原稿表示・文字起こし・40言語以上の翻訳に対応します。カメラを持たない設計で64,990円から。2026年4月にMakuakeで先行販売し、一般販売は8月下旬を予定しています
  • Google × Samsung:今秋登場予定。AIのGeminiを核に、ナビや翻訳、メッセージ要約などをこなし、AndroidにもiPhoneにも対応します。デザインはGentle Monster、Warby Parkerらが担当し、「音声のみ」と「ディスプレイ付き」の2タイプ、600〜900ドル前後の見込みです
2026年の主なスマートグラス
ブランドカメラ画面表示翻訳バッテリー価格・発売
Ray-Ban Meta1,200万画素/3K動画なし(日本版)20言語(6月〜)約8時間+ケース48h73,700円〜/2026年5月
Xiaomi AIグラス1,200万画素/広角なし(音声中心)10言語約8.5時間約1,999元〜/主に中国
SABERAなし片目・FOV約30°40言語以上約8〜12時間64,990円〜/8月下旬一般販売
Google×Samsungタイプによりタイプにより(片目)Gemini対応未公表600〜900ドル/2026年秋予定

こうして華やかに並ぶなかで、少し性格の違う一台があります。それがEven G2です。

Even Realities(イーブン・リアリティーズ)の「Even G2」は、2023年に創業した新興メーカーがつくる製品です。創業者はかつてAppleでApple WatchやiPhoneの量産に携わったエンジニアで、2026年7月には企業評価額が10億ドルに達し、ユニコーン企業の仲間入りを果たしました。

もっとも、この製品の特徴は経歴よりも見た目にあります。スマートグラスとは思えないほど自然で、顔まわりを邪魔しない、日常に溶け込む洗練されたデザインです。リアルタイム翻訳や、手元のカンペを視界に置くプロンプター、ナビゲーションといった機能を備えながら、外見上、通常のメガネとは何ら変わりません。レンズに映る文字は控えめで、視界を邪魔しない。表示は左右両方のレンズに映る両眼式のため見え方が自然で、度数も-12.00〜+12.00まで対応し、そのまま日常の常用メガネとして使用できます。 そして、この自然な佇まいの裏側には、毎日の使い勝手を左右する違いも隠れています。機能を並べれば各社は似通ってきますが、Even G2にはわかりやすい違いが二つあります。

一つは、両目で見えること。表示付きスマートグラスの多くは、片方の目だけに情報を映す単眼式です。市場をリードするRay-Ban Meta Displayも、国産のSABERAも片目表示を採用しています。片目だけで文字を追う方式は、慣れないうちは見えづらさや目の疲れにつながることがあります。Even G2は左右両方のレンズに導波路を組み込んだ両眼式で、両目で自然に文字を捉えられるため、映像が立体的で見やすく、長時間かけていても疲れにくいのが持ち味です。度付きレンズと表示部を一枚に一体化している点も、視力矯正メガネとして日常的にかけ続けることを前提にした作り込みと言えます。

左右のレンズに自然に文字が映るのでとても見やすい

もう一つは、電池の稼働時間。カメラで撮影したりAIとやり取りしたりする製品は、どうしても電力を多く使い、1回の充電で8〜10時間ほどが一般的です。日中に残量が心もとなくなり、こまめに充電する場面も出てきます。これに対しEven G2は、1回の充電でおよそ2日間もちます。朝から晩まで一日中かけていても電池が切れる心配がなく、外出先で残量を気にする場面がほとんどありません。カメラを持たず、表示も必要な情報にしぼった設計が、そのまま長い駆動時間につながっています。この「一日の中で残量を気にしなくていい安心感」は、毎日手放さずにかける道具だからこそ、想像以上に大きな差になります。

魅力は、こうしたハードの作りだけではありません。Even G2はChatGPTを土台にしたAIアシスタントを備え、会話やその日の使い方を読み取って情報を差し出してくれます。打ち合わせ前に資料や要点を登録しておく機能もあり、その場に合わせてAIが手元を助けてくれます。さらに外部の開発者がアプリを作れるオープンな仕組み(Even Hub)を持ち、翻訳・メモ・音楽再生・株価表示・健康管理など数十のアプリが、世界の開発者コミュニティの手で今も増え続けています。

こうした機能が、思いがけない形で役立つこともあります。たとえば、補聴器の補助としての使い方です。補聴器は聞こえにくい音を補ってくれますが、音量が補われても、言葉を一つひとつ正確に聞き取るのが難しい場面はあります。そこで生きるのがEven G2の会話同時表示です。目の前の相手の言葉をその場で文字にしてレンズへ映すため、耳で音を補いながら、目で言葉を確かめられます。

相手の言葉がその場で文字に。耳と目の両方で会話を支える

この使い方は例えの話ではありません。実際に、補聴器を使っている方がEven G2を併用し、相手の言葉がぐっと受け取りやすくなったと語る例もあります。「会話をもう少し確実に受け止めたい」と感じている方にとって、心強い選択肢になり得ると思います。

ここで、これまで登場した主なモデルを一度整理しておきます。自分の使い方に近いのはどれか、選ぶときの目安にしてみてはいかがでしょうか。

モデル主な強みカメラこんな人に
Ray-Ban Meta撮影・SNS・AI対話あり記録や発信を楽しみたい人
Even G2電池が2日もつ・会話表示・両目表示・自然なデザインなし語学・会話補助・日常づかい重視の人
SABERA純国産・AR表示なし国産を応援したい・新しいものが好きな人
Google/SamsungGemini AI・拡張性タイプによりAndroidと連携したい人

こうして各社の方向性を眺めると、市場は大きく二つの思想に分かれつつあることが見えてきます。ひとつはRay-Ban Metaに代表される、カメラで世界を撮り、AIに認知させて発信していく方向。もうひとつはEven G2やSABERAのように、カメラを持たず、必要な情報を静かに映す方向です。撮るか、映すか。どちらが正解ということはなく、使う人が何を求めるかによって選択肢は広がっていきます。

そして、どれほど高機能になっても、スマートグラスが最後には「毎日かけるメガネ」であることは変わりません。かけ心地が悪ければ、機能も使われないままになってしまいます。自分の顔立ちや度数、暮らし方に合った一本を丁寧に選ぶこと。その大切さは、時代が進んでも変わらないのだろうと思います。