2004年。女優・樹木希林、61歳。
網膜剥離により、左目の視力を失った。
手術という選択肢はあった。でも彼女は、断った。
そして、こう言ったのだ。
「目玉一個つぶれたって、お釣りがくるような人生だったな」
この言葉を、何度読み返しても胸がすく思いがする。
諦めではない。嘆きでもない。何かを失うことを「不幸」とは捉えず、それまでに得たものの多さに静かに目を向けた言葉だ。「足るを知る」という言葉があるけれど、希林さんのそれは説教くさくなく、むしろどこかさばさばと、清々しい。
希林さんには座右の銘のような言葉があった。「不自由を面白がる」。片目になったことについても、「今まで見えすぎたものが見えなくてちょうどいい」といった趣旨の発言を残している。不便を嘆くのではなく、不便のなかに面白さを見つけてしまう。
そして、その言葉の底にあるのは「執着からの解放」だと思う。失ったものを追いかけず、今の状態を新しい「自分」として定義し直す。希林さんが体現していたのは、暗さのない、むしろ軽やかな諦めだった。
60代でそれができる人が、どれほどいるだろう。いや、30代でも、20代でも。何かを失ったり、変化に直面したとき、そこにユーモアと余白を持てることは、思っているよりずっと難しい。
そして2016年1月。もう一枚、忘れられない「希林さん」がある。
宝島社の新聞全面広告。英国の画家ジョン・エヴァレット・ミレイの名画「オフィーリア」——花々に包まれ、水面に横たわる女性を描いた、あの絵——をモチーフに、樹木希林が静かに目を閉じている。そこに添えられたのは、たった一行のコピーだった。
「死ぬときぐらい好きにさせてよ」
読んだ瞬間、言葉を失った人も多いのではないだろうか。
「生きるのも日常、死んでいくのも日常」——広告には、希林さん自身のそんなコメントも添えられていた。この一枚は朝日広告賞をはじめ数々の賞を受賞し、「生き様が絵になるだけでなく、死に様まで絵になる役者」と称された。
当時72歳。全身がんを抱えながら、それでも彼女は「好き」を選び続けていた。
思えば、左目を失ったあの日から、この広告まで。樹木希林という人は、一度も「仕方なく」を選ばなかった。俳優も、ファッションも、生き方も、そして死に際でさえ。自分の「好き」を、静かに、しかし確かに、貫き続けた人だった。
若い世代が、いま希林さんに惹かれるわけ
樹木希林さんが他界して、もう8年近く経つ。それでも彼女の名言はSNSでシェアされ続け、「樹木希林 名言」の検索は今も絶えない。
是枝裕和監督の映画「海街diary」や「万引き家族」を通じて彼女を知った20代・30代も多い。あるいは、ふとスクロールしたInstagramで彼女の言葉に出会い、「なんか、刺さる」と感じた人も少なくないだろう。
なぜ、世代を超えて響くのか。
「おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」。「楽しむのではなくて、面白がることよ。面白がらなきゃ、やってけないもの、この世の中」。これらの言葉が、今まさにSNSの「比較」や「正解のある生き方」のプレッシャーに疲れた若い女性たちの心に、じわりと響いている。完璧でなくていい。誰かと同じでなくていい。自分の「好き」を持っていればいい——希林さんの哲学は、むしろ今の時代のほうが切実に必要とされているのかもしれない。
メガネひとつをとっても、同じことが言える。
視力が落ちてきた、老眼が始まった。そういう「変化」を前に、「仕方なくかける」という気持ちになる瞬間は、年齢を問わず誰にでもある。スマートフォンを長時間見る現代では、むしろ20代・30代にも視力の変化は身近な問題だ。
でも、「かけたいからかける」に変わった瞬間、メガネはアクセサリーになる。表現になる。自分らしさの一部になる。希林さんが61歳で体現したことは、何歳でも、誰にでも、できることだ。
Dragée(ドラジェ)という選択
フランスの祝い菓子「ドラジェ」。結婚式やお祝いの席を華やかに彩るその一粒のように、アイウェアが人生の大切な瞬間を輝かせてほしい——そんな想いから生まれたブランドが、2015年に誕生した。
2025年、ブランド誕生から10年。新たなテーマカラーに選ばれたのは「ラピスラズリ」の深く澄んだブルー。その色が持つ意味は、「真実」「崇高さ」、そして「変化し続ける力」。
しなやかに、芯を持って生きる女性へ。年齢も、世代も問わず、「かけたい」と思えるメガネを届けたい——それが、Dragéeの変わらない約束だ。
TRESSE CROWN(トレス クラウン)
纏う人のらしさを、美しく紡ぐ

フロント:ダークグレ―/WG テンプル:ゴールド/ワイン
TRESSEはフランス語で「編む」を意味する。異なるものが寄り合い、ひとつの美しさを生む。
ダークグレーのクラウンパントに、ゴールドのブリッジ。テンプルはゴールドとワイン、2色の細い金属が小さな結び目で出会い、二筋に分かれて耳元へと伸びていく。異なる色の糸を編み合わせたかのようなこの造形こそ、TRESSEの名を体現するディテール。先端のモダンには、深いボルドーのマーブルが重ねられている。

フロント:ダークグレ―/WG テンプル:ゴールド/ワイン
CROWNという名前が示すように、かけた人をさりげなく主役にする一本。
TRESSE POLLY(トレス ポリー)
「好きにさせてよ」を、まとう

フロント:オリーブ/G テンプル:ゴールド/オレンジ
オリーブの多角形フロントに、ゴールドのブリッジ。テンプルはゴールドとオレンジ、2色の金属が結び目を描き、二筋となって耳元へと伸びていく。CROWNと同じ「編む」構造を、より鮮やかなコントラストで響かせるフレーム。先端のモダンに置かれた深いティールブルーのマーブルが、その大胆さに不思議な静けさを添えている。

フロント:オリーブ/G テンプル:ゴールド/オレンジ
どちらのモデルを選んでも、それは「仕方なく」ではなく「好きだから」という選択になる。
「好きにかける」ことが、今日の自分への答えになる
「死ぬときぐらい好きにさせてよ」。
この言葉は、メガネにも、ファッションにも、生き方全体にも通じると思う。
30代も、40代も、50代も——変化する自分を受け入れながら、それでも「好き」を選び続けること。希林さんはそれを、言葉だけでなく、その全身で見せてくれた。
左目を失ったあの日も、全身がんを抱えたあの広告も、希林さんの「好きにさせてよ」は、特別な勇気から生まれた言葉ではなかったと私は思う。日々、小さな「好き」を選び続けてきた人だけが、最後にあの一言にたどり着くのだ。
あなたが今日、「仕方なく」ではなく「かけたいから、かける」を選ぶこと——それもまた、自分への、小さくて確かな「好きにさせてよ」だ。







































